第一環境株式会社
アプリケーション
水道事業体向けトータルソリューション「AQUA-V」
開発ツール
- Delphi
課題
既存のシステム資産や開発スキルを活用しつつ、将来にわたる機能拡張が可能な開発基盤を手にしたい
結果
従来製品の機能や操作性を継承しマルチデバイス対応を果たしたDelphi XEシリーズを活用し、PCとAndroid端末で動く業務システムを開発した
PDFのダウンロード第一環境、水道料金徴収業務の「現場力」を Android 端末活用により向上、マルチデバイス対応の Delphi XE シリーズで開発環境を 1 本化
水道料金徴収業務受託を行う第一環境は、水道事業体向けトータルソリューション「AQUA-V」を構築し、本格運用を開始している。マルチデバイス対応の開発環境であるDelphi XEシリーズをソフトウェア開発環境として全面的に採用した。中でも水道料金徴収業務の現場作業を支援するシステムである「AQUA FIELDER」では、PC上で動く拠点側のシステムだけでなく、検針業務の現場で使われるAndroid搭載のモバイル端末向けソフトウェアの開発にDelphi XEシリーズを適用している。
「強力なモバイル環境により検針業務の“現場力”を増すことを図った」
- システムソリューション部 VSPチーム長 システムエンジニア、後藤直樹氏
PCとAndroid搭載モバイル端末の両方でDelphi XEシリーズを採用したことは、同社にとって大きな挑戦だったが、その結果として強力なモバイル環境が手に入った。同社はこの挑戦を「現場力」を高めることに結びつけていく考えだ。
最新の開発環境も、慣れ親しんだ操作性で活用できた
同社は1990年代からDelphiシリーズを活用し、業務システムを自社開発してきた。水道料金徴収の業務と、業務システムの開発運用、あたかも車輪の両輪のようにこの両方を自社内で行っていることが同社の強みだ。現場の声をいち早く業務システムに取り入れることができる。
新システムの開発にあたり、開発環境については別の選択肢も候補に挙がっていたが、マルチデバイス対応のDelphi XEシリーズが登場したことから、同社はPCとモバイル端末を共通の開発環境で開発するとの方針を固めた。PC上のシステムの開発メンバーが習熟していたDelphiシリーズの機能や操作性を継承できることは大きなメリットだったうえ、Android向けのソフトウェア開発にも適用できることから、現場をより強力に支援するモバイル環境が手に入ると考えたからだ。
今回の新システム構築では、従来は別システムとして分かれていた業務システムとGIS(地理情報システム)と統合する大きな変更を行った。また技術だけでなくデザインもがらりと変えた。業務シス テムの画面デザインをデザイン専門の会社に依頼し、水道料金のシステムらしい「水」をイメージするデザインを取り入れている。新たな開発環境Delphi XEシリーズを手にしたことがきっかけと なり、同社はシステムの大幅な刷新に踏み切ることができたのだ。
Delphi XEシリーズによる開発経験を、同社システムソリューション部 副部長の周郷泰宏氏は次のように表現する。「Delphi 7からDelphi XEシリーズへとジャンプしたが、基本的な挙動は変わらなかった。プログラミング言語の構文も基本は共通しているし、コントロールキーを併用したショートカットキー操作も共通だ。我々にとって、そこが非常に好都合だった」。
端末側は環境の変更に苦労したが、最新の開発環境のメリットを享受
モバイル端末として新たに採用したパナソニック製Android端末TOUGHPAD
一方、モバイル端末の開発チームにとっては、Delphi XEシリーズの採用は大きな挑戦となった。同社の従来の業務システムでは、モバイル端末としてWindows Mobile端末を活用し、ソフトウェアはeMbedded Visual C++を活用していた。これをAndroid端末に移行することは、開発環境も端末も一新することを意味する。そこで段階的な導入手順を踏み、まずは「研究」との位置づけで評価することから始め、経験を蓄積していった。
モバイル端末として新たに採用したのは、パナソニックのAndroid端末TOUGHPADである。Android上のソフトウェア開発ではDelphi XEシリーズのマルチデバイス開発機能であるFireMonkeyフレームワークを活用した。端末側の開発メンバーにとっては、eMbedded Visual C++からDelphi XEへと開発環境が大きく変わったことになる。
端末側の開発メンバーは、開発環境も開発言語も変わったが、得られたメリットもまた大きかったと話す。「コード補完の機能が充実しているのは親切だと感じた。またデータベースとUIコントロールをビジュアル開発環境で結びつけるLiveBindingは非常に便利だった。今までは“ごりごり”とコーディングしていたところを、抽出用のクエリを画面で出せば機能を実装できる」(システムソリューション部 開発グループ HHTチーム 三浦誠氏)。
苦労は開発環境、開発言語の移行だけではない。苦心したことの一つは、モバイル端末特有の小さな画面に納める情報の整理だ。「画面展開をなるべく少なくしたかった。その結果、一つの画面で項目数が増えることになった」(三浦氏)。その一方で画面あたりの項目数が多すぎると速度が低下する。「画面の項目数と速度のトレードオフについては、試行錯誤をしながら画面を分割していった」(後藤氏)。
プログラム内の文字コードが従来のシフトJISからUnicodeに変わったことに対応する必要もあった。特に大変だったのは検針の現場で使うハンディプリンターへの対応だ。プリンターはシフトJISコードだけを受け付ける。そこでシフトJISに変換できない外字を印刷するため、「見えないオブジェクトを用意して、画面に表示したビットマップをプリンターへ送るコマンド列に入れて送信する」という“裏技的”な手法を編み出している。
前述したように、同社は「現場力」を高めることを重視している。開発の過程では、開発メンバーが水道メーターの検針の業務に同行し、意見を吸い上げる取り組みも行った。例えば、タッチパネル上のボタンを操作したときに音が鳴るようにしたのは、そうした意見集約の結果である。検針業務の現場はオフィスとは大きく環境、事情が異なるため「ボタンを押した」ことを確認できる手段がぜひ欲しい、との意見を取り入れた結果だ。
モバイル端末の活用方法については、まだまだアイデアがある。「出退勤管理や、現場の検針員へのメッセージを伝えるのにもAndroid搭載モバイル端末を使えないか。例えば朝礼の役割を端末に持たせられないか」(前出の周郷氏)。このようなアイデアを検討しているところだ。
新たな技術への挑戦と、それに伴う工夫の結果として、同社はPCとAndroid搭載モバイル端末の両方の開発環境をDelphi XEシリーズで統一することに成功した。Delphi XEシリーズの機能の高さと生産性を活用することで、同社はシステムと業務の両方をよりよく改善していけるとの感触を得たところである。
新事業推進室長 松本太郎氏(左下)
システムソリューション部 副部長 周郷泰宏氏(右下)
同 VSPチーム長 システムエンジニア 後藤直樹氏(左上)
同 開発グループ HHTチーム 三浦誠氏(右上)